―――魔都グレルバレルカ・血の噴水前
シスター・エレンと思われる人物が邪神の心臓に向かった。詰まりそれは、先ほどリオンが当てずっぽうで言ってみた答えに繋がってしまう事を意味する。しかし、あり得るのか? シルヴィアとエマの育ての親、シスター・エレンがエレアリスの使徒のリーダー、代行者だったなんて事が。
「アンジェ、代行者の着ていた衣服って白い法衣だったか?」
「う、うん。少なくとも私が戻った時は、いつもその恰好だったよ」
あかん、これあかんやつや。益々シスター・エレン=代行者の図式が成り立っていく。希望的観測で考えても仕方ないが、これをどうシルヴィア達に伝えればいいものか…… まずは状況を整理するか。エレンが使徒の根城に向かった理由を考えるとするならば―――
①シスター・エレンはやはり代行者だった。可能性大。
②シスター・エレンは唯一行方が知れていない第2柱の選定者。これも十分にあり得る。
③シスター・エレンの病を治すのに必要なものが、たまたま邪神の心臓にあった。運悪く使徒に出くわし、現在行動できない状況にある? 正に希望的観測。
現実的に考えれば本命が①、次点で②だろうな。銀髪で同じ服装と、似ている点が多過ぎる。可能性は薄いが、③もなくはないと思うけど。
「もう1つ質問だ、アンジェ。ここ数年で使徒の根城に侵入者とかはいたのか?」
「ごめん、それは分からないや。私はずっと聖鍵(せいけん)の力を使って聖域に戻っていたし、そういう管理面は巫女の力を使っている代行者か、ずっと聖域にいる守護者しか知らないと思う。一応、ベルちゃんに聞くのも良いと思うけど、あまり期待はしないようにね」
「そうか……」
元使徒とはいえ、聖域とされる根城の全域を把握している訳ではないか。何か、今ある情報から決定付けるような方法はないか? ―――あ、そうだ。
「アンジェ、更に注文だ。配下ネットワークに代行者の容姿を思い描いて、そのままアップロードしてくれ。人の顔を覚えるのは朝飯前だろ?」
「それはお安い御用だけど、どうするの?」
「まあまあ、まずはやってみてくれ」
「ええっと、こうかな?」
アンジェが目を瞑ると、直ぐに代行者と思われる人物が配下ネットワークに映し出された。おー、確かにコレットに似ているかもな。例えるなら、コレットのお姉さんって感じか。聖女とも言えるし、聖母でも通りそうだ。胸もたわわである。
「ケルヴィン君、何を考えているのかなぁ?」
「い、いや、コレットに似ているなって」
危ない危ない、今は胸の話題は厳禁だった。アンジェに刺される前にさっさと次の工程に進んでしまおう。
「次はリオンの出番だ」
「僕?」
「今アンジェが上げた代行者の姿を絵に描き写してほしいんだ。できるだけ正確に、写真みたいな感じでさ。スケッチブック持ってるか?」
「うん、丁度ハルちゃんから貰った画帳があるよ。クロト、出してー」
……ハルちゃん? ああ、ラインハルトの事か。
「そうそう、これこれ♪」
リオンは上機嫌そうに大きめのスケッチブックをクロトから取り出した。その表紙には、大きな字で「悪魔四天王ラインハルト、偉大なる芸術家リオン大先生へ!」と書かれている。それ、サインなのか? ラインハルト先生からのサインなのか?
「あ、やっぱり気になる? この前、ハルちゃんとお互いのサインを書いた画帳を交換したんだ。初めてのサインで緊張しちゃった。何の変哲もない画帳らしいんだけど、これに描くと調子が良くって」
お互いにサインし合うってのも珍しいな。しかし、そうはにかみながら話すリオンは可愛い。天使可愛い。
「えっと、少し待ってね」
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